6月13日(水)、「障害のある女性の生活の困難・複合差別実態調査」報告会
(衆議院第2議員会館第5集会室)に参加してきましたので報告します。

【事業の経緯と目的】
現在の社会には障害者差別も女性差別も根強く現存しており、障害があり女性で
あることは重複した差別を受け、解決も容易でない。
このような状況が「複合差別」であり、障害女性のこうむる根本的な原因である。
ところが、障害女性の複合差別についての社会的認識は低く、公的な障害者統計
に男女別の集計がほとんどなく、国は「障害者」という集団をひとくくりにして、
性別による格差に注目してこなかった。また、障害女性を「性のある存在」とし
て尊重する対応も怠ってきた。

また、障害者運動も、女性固有の困難やニーズに焦点を当てたものは少なく、私
たちが抱える問題は気づかれずに放置されてきた。同時に女性運動の中でも、障
害女性のニーズに着目したものは少ない。

そこで、障害女性の困難を可視化しようとこの事業を計画し、調査を始めた。
事業は、A(障害女性の経験を集める)とB(国・地方公共団体の制度・政策の研
究)の2つのチームに分かれて行った。
報告書は現代社会に暮らす障害女性がこうむっている複合差別の実態と公的施策
の不備を明らかにしている。

A【障害のある女性の生きにくさに関する調査】(要約)
調査に寄せられた回答を問題別に15に分類して紹介している。その中でも性的被
害が最も多い。

<性的被害について>
被害を受けた場所は「介助、福祉施設、医療の場」が10件と最も多く、どの場所
についても障害のある女性がそうした場に行かなくてはいけない場所、そしてそ
こに「行かない」という選択のできない場所でおこっている。

また、障害のために相手の顔、声がわからない、走って逃げたり反撃できない、
判断力がないとみなされる、経済的自立ができない等障害女性の弱みに付け込み
加害者が多い。

介助中や医療の場で発生する性的被害については、加害者に加害の意図があるか
はっきりしない場合もある。それは障害女性にとって何が不快であり恐怖となる
か、被害を生じさせない介助、医療の在り方が検討され周知されるべきこと。
たとえば同性介助が医療の現場ではなかなか実現されず、排せつや入浴の介助を
異性(=男性)がする場合が多く、「性や意思のない存在」として扱われる事例
が多数報告されている。

<その他>
その他の項目それぞれをみて共通するのは、障害があることによって就労、恋愛、
結婚、生殖等についての自己決定権が認められないこと。
障害によって「女性の性別役割」というものがこなせない存在、半人前の存在と
して扱われる一方、「女性の性別役割」を押し付けられ、家事などは当人の健康
を度外視してでもするべきと見なされる。それができないことに対しての非難や
DV等の暴力を受ける実態が浮かび上がっていた。(障害男性は家事ができなくて
も非難は受けない)

また、障害女性を介助する側にとって「面倒」だという理由で、生理が来ないよ
うに手術をしたり、進められるケースがある。その他、子どもを産んだり結婚し
たりする存在として認められない。子どもが障害があるのではないかと、堕胎を
進められる、逆に子供を産むことによって自分の世話をさせようとしているんだ
ろうと見られる等々の差別があることがわかった。
あらゆる場での自己決定権が奪われていることがよくわかる報告だった。

介助の場では性的被害が起こりやすく、その要因として「異性介助」の問題が深
刻で発生数も多い。介助・医療の現場では人員の不足から異性介助をやむを得な
いとされるが、介助は恩恵ではなく人として当たり前に暮らすことの保障である。
それが認識されず、「介助する側の都合」で介助が行われる限り、人員が増やさ
れても同性介助の実現は保障されないだろうと報告されていた。

また就労などで自立したいと考えている障害女性は多いが経済的自立が困難な状
況にある。これは障害女性にとって貧困の問題にとどまらず、性的被害などのほ
かの問題に結びつく問題である。

・・・
以上より障害女性の困難は障害者差別と性差別が複合していることが明らか。こ
れを解消するために障害女性に直接届く施策が必要不可欠。

B 【都道府県の男女共同参画計画とDV防止計画の中の障害女性】
複合差別に言及している計画は非常に少ない。高齢者施策やひとり親家庭などと
同じように扱われていたり、障害女性の家事、身だしなみ、生け花等の訓練指導
で自立と社会参加の促進を図る計画もあった(性別役割分業の押し付け)。

DV被害者相談については電話相談が多く、聴覚障害者にとっては困難。メール等
でも相談できるような改善が必要。

また視覚障害者にはPDF形式は読めないそうだ。テキスト形式なら読み上げ機能
があってわかるのだが、施策内容がPDF形式だと内容を知ることができない。
【各都道府県の調査内容が報告書にあるので、県ネットにおいておきます】

【今後に向けた提言】
この調査で、障害を持つ女性には固有のニーズがあること、それに対して現在の
障害者施策、女性施策は対応できていないことが明らかになった。
このことから以下のことを国や地方自治体に求める。

*障害者について行い調査は、性の違いによる格差を認識し、性別の集計を行う
こと。
*障害者にかかわる法・制度・施策は、性の違いによる格差をなくす方向に向け
て策定すること。
*法・制度・施策をつくる過程に、障害女性当事者が参画すること。


さらに具体的な問題として以下のことが必要。

*障害女性の就学、就業率を高め、経済と生活の自立を可能にすること
*差別を受けたとき、訴えられる窓口の充実
*障害女性の生と生殖に関する健康と権利の保障。障害女性が性と身体を知り、
自分の意思を表明するための教育と情報・子どもをもつ、もたない、どちらも選
択できるサポート体制の充実。

これからできる障害者差別禁止法に障害女性に関する条文が明記されることを求
める。

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